ドイツの医療事情② 医療体制独日比較
ドイツの医療事情② 医療体制独日比較
ドイツで物議をかもしているラウターバッハ保健相による病院改革(Krankenhausreform)。その内容は、地方医療の強化、治療の質の向上、効率的な運営などに焦点がおかれていますが、そもそもドイツの医療体制は日本とどのように違うのでしょうか。ドイツの医療体制は、病院改革が不可欠とされるほど逼迫されている状況なのでしょうか。今回はその医療体制の違いについてお伝えします。
1. 病院の所有形態と役割の違い
ドイツと日本の病院システムの最も顕著な違いは、その所有形態と役割にあります。ドイツでは、公立病院が約30%、非営利団体による病院が約35%、民間病院が約35%とバランスよく分布しています。一方、日本では医療法人(非営利)が約70%を占め、公立病院が約20%、その他(民間企業、個人)が約10%となっています。
また、ドイツ特有の制度として、「計画病院(Plankrankenhaus)」制度があります。これはドイツ各州の病院計画に基づいて認定された病院で、地域の入院医療を担う中核的な存在であり、州政府からの財政支援として投資的経費の補助を受けています。この病院では24時間体制での患者受け入れ義務もあります。計画病院は、公立病院だけでなく、非営利団体や民間の病院も含まれ、この制度により、地域ごとに必要な医療サービスの提供が計画的に行われ、医療の地域格差の軽減が図られています。
この所有形態の違いは、病院の役割にも大きな影響を与えています。ドイツの病院は主に入院患者の治療に特化し、高度な専門治療や手術を提供する場所となっています。外来診療は原則として行わず、救急医療を担当する形です。対照的に、日本の病院は入院治療と外来診療の両方を提供し、初期診療から高度専門医療まで幅広いサービスを一か所で受けられる医療における「なんでも屋」的な存在となっています。
この違いは、医療資源の配分や患者の受診行動に大きな影響を与えており、それぞれの国の医療システムの特徴を形作っています。
2. プライマリ・ケアの仕組みと患者の受診経路
両国の医療システムにおけるもう一つの大きな違いは、プライマリ・ケアの仕組みと患者の受診経路です。
ドイツでは「ハウスアルツト(Hausarzt)」と呼ばれる家庭医システムが確立しています。ハウスアルツトは患者の初期診療を担当し、健康管理と予防医療を行いつつ、必要に応じて専門医や病院への紹介を行います。患者は原則としてまずハウスアルツトを受診し、そこから適切な医療サービスへと導かれていきます。これをプライマリ・ケアといい、日常的な診察や健康管理を幅広く行う医師による医療です。特定の病気に限らず、急な体調不良や健康相談、専門医への紹介などを行います。また、在宅診療や地域の健康管理も担当します。
一方、日本では「かかりつけ医」という概念はありますが、ドイツほど制度化されておらず、患者は比較的自由に医療機関を選択でき、直接専門医や大病院を受診することも可能です。この「フリーアクセス」と呼ばれるシステムは、患者の選択権を重視する日本の医療文化を反映しています。
この違いは、医療サービスへのアクセスの仕方や、患者と医師の関係性、さらには医療資源の利用効率にも影響を与えています。ドイツのシステムは医療の重複や無駄を防ぐ効果がある一方で、専門医へのアクセスに時間がかかる場合があります。日本のシステムは利便性が高い反面、重複診療や医療機関の機能分化の遅れといった課題も抱えています。
3. 医療提供体制の効率性と課題
これらの構造的な違いが医療提供体制の効率性や直面している課題にも影響を与えています。ドイツでは、外来と入院の明確な分離や家庭医システムにより、医療資源の効率的な利用が図られています。しかし、病院間の競争激化による医療の地域格差の拡大や、民間病院の増加に伴う医療の公共性の維持といった課題も生じています。
日本では、フリーアクセス制により患者の利便性は高いものの、大病院への患者集中や医療機関の機能分化の遅れといった問題が指摘されています。また、公立病院の経営効率化や地域医療構想に基づく病床機能の分化・連携の推進といった課題にも直面しています。
ドイツ、日本ともにいえることは、高齢化社会の進展や医療技術の進歩に伴う医療費の増大という課題は切迫しているようです。