ドイツの医療事情⑦ 玉ねぎソックスにコーラ療法?ドイツ家庭の不思議な健康法「Hausmittel」の世界
ドイツの医療事情についてお届けするブログ、今回は7回目になりますが、ドイツの家庭に古くから伝わる「Hausmittel(ハウスミッテル)」、日本語でいう「家庭療法」や「おばあちゃんの知恵袋」のような健康に関する俗説の世界をご紹介します。
科学的な根拠はさておき…? と思われるものも多いのですが、こうしたHausmittelは、ドイツ人の健康に対する考え方や、以前の回で触れた「ドイツ人は薬嫌い?」や「自然療法が生きるドイツ」とも深く繋がっています。思わず「へぇ!」と声が出てしまうような、ドイツの興味深い生活文化とはどんなものなのでしょうか。

風邪には靴下の中にタマネギ、腹痛にはコーラ?!
ドイツの家庭では、軽い不調を感じたとき、薬局へ行く前に様々なHausmittelが試されます。特に風邪やお腹の調子が悪い時には、驚くような、でもドイツでは定番(?)とされる療法がたくさんあります。
- 風邪の定番Hausmittel:
- 玉ねぎソックス (Zwiebelsocken): スライスした玉ねぎを足裏に当てて靴下を履いて寝る、咳や鼻詰まりに効くとされる方法。(匂いは強烈!)
- 玉ねぎシロップ (Zwiebelsirup): 刻み玉ねぎと砂糖/蜂蜜で作る自家製咳止めシロップ。
- クヴァーク湿布 (Quarkwickel): フレッシュチーズ「クヴァーク」を布に塗り、喉に巻いて炎症を抑える湿布。
- ハーブティー (Kräutertee): カモミール、フェンネル、タイムなど、症状に合わせて様々なハーブティーが飲まれます。ドラッグストアの品揃えは圧巻です。
- チキンスープ (Hühnersuppe): 温かく栄養満点、弱った体に優しい定番スープ。世界共通の愛情レシピかもしれませんね。
- お腹の不調には…?:
- コーラとプレッツェル (Cola und Salzstangen): 子供の下痢の時に、失われた水分・糖分・塩分を補給する目的で勧められることがある組み合わせ。ただし、カフェインや糖分の過剰摂取には注意が必要です。
- (ビール (Bier): 「消化を助ける」という俗説も一部にはありますが、信憑性は低く、話のネタ程度かもしれません。)
これらの方法は、効果のほどは別として、ドイツの家庭で親から子へと受け継がれてきた生活の知恵なのです。

「新鮮な空気」と自然志向? Hausmittelが根付く背景
では、なぜドイツではこうしたHausmittelが今でも根強く残っているのでしょうか? その背景には、ドイツ人特有の考え方や習慣が見えてきます。
- 万能薬?「Frische Luft(新鮮な空気)」への絶大な信頼:
ドイツで健康の秘訣として何よりも重視されるのが「Frische Luft(新鮮な空気)」です。- 冬でも窓全開換気 (Stoßlüften): 定期的に窓を全開にし、淀んだ空気を一掃します。
- どんな天気でも外遊び: 子供は厚着して、雨でも雪でも外で遊ぶのが推奨されます。
- 風邪気味? まずは散歩: 少し体調が悪くても「新鮮な空気を吸ってきなさい」と言われることも。
この「新鮮な空気」信仰は、湿気がちな家屋事情だけでなく、「自然の力で健康を保つ」という考え方の表れと言えるでしょう。
- Hausmittelが好まれる理由:
「Frische Luft」信仰にも通じますが、Hausmittelが広く受け入れられている背景には、以下のような要因が考えられます。- 薬への慎重な姿勢: すぐに薬に頼らず、まずは自然なもので様子を見たいという意識。
- 自然療法への親近感: ハーブなど自然由来のものへの信頼感。
- セルフケア意識: 自分の体の声を聞き、自分で対処しようとする文化。
- 文化・伝統: 世代を超えて受け継がれてきた知恵への愛着。
- 現実的な理由: 専門医の予約が取りにくい(第1回参照)ため、軽い症状はまず家庭で、という側面も。
まとめ:文化としての面白さと注意点
玉ねぎソックスからコーラ療法まで、ドイツのHausmittelの世界、いかがでしたか? ご紹介したものは科学的根拠が不明なものも多く、試す場合は自己責任でお願いします。
とはいえ、Hausmittelはドイツの文化や人々の健康観を映し出す、非常に興味深い存在です。効率や科学だけではない、生活に根ざした健康への向き合い方がそこにはあります。「Frische Luft!」と窓を開ける人を見かけたら、ぜひこの記事を思い出してみてください。