ベルーフネットワークについて

ベルーフは、多くのクリニック、大学、企業と提携しています。ここでは、このネットワークを創った理念と経緯、その実際の活動について書いていきます。

目指すは、障害者雇用システムの法制化

 ベルーフを立ち上げる前の2009年から2014年の間に、ドイツをはじめとしたヨーロッパに、障害者雇用の現状について10回、場所にして40箇所の視察をしています。ドイツには、障害者就労担当の行政機関としてBIH(Bundesarbeitsgemeinschaft der Integrationsaemter und Hauptfuersorgstellen 統合局と中央福祉庁による連邦労働共同体)があり、その傘下に各地域で障害者を把握し、専門教育を行い就労させる地域行政機関IFD(Integrationsfachdienst 統合専門サービス)があります。ドイツにもハローワークに相当する連邦就労斡旋所(Bundesagentur fuer Arbeit)があるのですが、IFDとこの組織とが協力する体制が確立しています。そのためドイツでは、障害者の専門職での就労が、健常者と同様の水準まで可能になっています。ドイツはこの社会システムを作るのに30年かかっています。

20年後、日本も同じように国が先導した形で、ヴィジョンをもって、障害者雇用のシステムを法制化していればいいと思います。日本はドイツのモデルがあるので、時間はもっと少なくできるはずです。そのときに、ベルーフは、国と障害者と障害者支援団体のコンサルタント機関になっていたいと思います。障害者の就労について哲学と方法を持てるよう、国や支援団体の相談業務に応じ、障害者に対しては現在ベルーフでやっているような教育を続けていければと思っています。

ネットワークの成り立ち、どのように発展してきたか

ベルーフを開業した2014年、まずは利用者を紹介してもらおうと、都内の精神科クリニックを職員が手分けして回り、先生方と話しました。400以上のクリニックで、先生やPSWと、患者像や必要な支援について話していくうちに見えてきたのは、まずクリニックが障害者の就労についての情報を持っていない、あるいは、患者にとってストレス要因になり得る就労そのものに積極的でない考えのクリニックが少なくないことでした。そこで、ドイツのモデルを丁寧に説明し、専門職就労という方法が実現可能であることを知ってもらうことから始めました。現在提携している20のクリニックは、このベルーフの理念に賛同して頂いた先生方で、利用者紹介のみならず、日々、色々な情報を交換させて頂いています。

次に着手したのが、大学です。大学ネットワークは、クリニックから、卒業間近に就職が決まっていない学生の問題が持ち上がっていたこともあり、大学にベルーフの情報を発信するようになったことがきっかけです。2018年秋から、キャリアセンターに連絡を取って回り始めました。始めた当初は断られることも多かったのですが、2019年には就労移行支援事業所が浸透してきたこともあって、ネットワーク情報を活用してもらえるようになりました。

 現在力を入れているのは、企業ネットワークです。ベルーフ設立後まもなくは、ハローワークの専門第二部門と連携して、合同面接会や非公開求人の紹介からはじめていきました。ハローワークはいまでも就労活動の大事なパートナーですが、求人紹介は無理をさせないという方針で補助業務が中心でした。ベルーフで専門的な技術力をつけた利用者にはマッチング面でうまくいかないことも多かったのです。その後、ハローワークで企業側を担当する雇用指導部門を通じて企業と直接協議するようになると、企業側もスキルを持った精神・発達障害者がいることを知ることになり、自然と連携を組むことになりました。

現在の活動

クリニック・大学ネットワークに対しては、情報提供が主になります。不定期発行しているベルーフニュースを発送したり、メールで近況を伺って情報交換したりしています。小規模事業所であればこその、利用者・卒業生、一人一人の表情・背景が見える生情報(例えばベルーフにどんな人が入ってきたか、Python研修で研修生がどういう取り組みをしているか、卒業生の仕事の状況など)を、努めてお伝えするようにしています。個々のプライバシーは守られる必要があるため、個人名や企業名は出しませんが、良いアイディアや取り組みについては積極的に情報共有するようにしています。

企業に対しても情報提供が柱にはなりますが、継続支援(一般用語では「定着支援」と呼称しますが、ベルーフでは「継続支援」と呼んでいます)面談の際、個別の相談支援を行っています。最も多い相談は、雇用した障害者のキャリア支援です。「今後、新しい仕事に取り組んでもらおうと思うが、どんな配慮が必要か」「こんな業務を覚えてもらおうと考えているが、本人の障害特性をカバーする方法はあるか」等、本人を中心に据え、企業とベルーフが一緒に問題解決に取り組みます。

1年に1回主催している総合説明会は、企業ネットワークにとって大きなイベントです。これは、ベルーフの沿革や活動の周知、研修生の就活の場として2018年から実施しているものですが、卒業生の就職している会社、個別アプローチでつながっている企業の人事担当者、今後障害者の専門職採用を検討していきたい企業の担当者の出席が多く、年々参加者は増加し、総合説明会をきっかけに就労していく卒業生も出るようになりました。2020年と2021年はオンラインでの開催を余儀なくされましたが、今年の実施方法を含め、今後どうしていくのか検討しているところです。

現在、大学ネットワークは44大学、クリニックは20件、企業はおおよそ30社という規模ですが、今後は地域を問わず拡大していきたいと考えています。

先方にとってのネットワークのメリット

大学のキャリアセンターでは1000人、2000人単位の学生を見なければいけないという状況の中で、障害者の学生をどう支援するかという問題があります。ネットワークによって、まず就労移行支援事業所という選択肢を考えていただくことができます。ベルーフで専門技術を学んで専門職に就労した学生さんも数名おり、年々増加しています。

企業では、障害の有無にかかわらず、業績に貢献することのできる人材を求めています。また、障害者を雇用すれば、2.3%という障害者雇用率を満たすことができます。ネットワークの存在は企業にとって一石二鳥になると思います。

またクリニックネットワークには、相互紹介というものがあります。クリニックは、専門職で働きたいと考えておられる患者さんをベルーフに紹介し、ベルーフは、継続的な通院先がなかったり転院を考えていたりする利用者にクリニックを紹介します。また、精神科クリニックの医師は病気についての専門家であるため、雇用条件や企業側の事情に詳しくないことも多々あります。ベルーフの活動や精神・発達障害者が就労していくプロセスをお伝えすることは、病院が障害者雇用の理解を深めることにつながっていくと思っています。

クリニック・大学・企業の声

企業への相談支援をしているためか、人事担当者や直属上司から評価の声を頂くことが一番多いです。二人三脚で就労継続支援をやってきたことがお役に立てているようです。企業側も精神・発達障害者の雇用と就労継続については経験が浅く、どうマネジメントして良いのかわからないというのが本音です。それぞれの企業の特徴や事情に応じて、障害への配慮は行いながらも、成果へ結びつけるにはどうすれば良いかを共に考える相手が居ることは、障害者雇用そのものへの信頼と期待を生み出しているようです。おかげさまで(採用の)リピートオーダーもいただいたりしています。

クリニックでは、もう少し重度の方を専門的にトレーニングする場があるといいのですが、と提案されたこともあります。就労移行支援事業所の利用期限は2年間と限られているため、一般企業で働けるようになるには、時間の足りない方も確かにいらっしゃいます。ドイツのような社会制度がまだ整っていない日本では、「どんな障害であろうと、就きたい職業に就く」ということがいかに困難であるかを痛感していますが、諦めずに解決策を編み出して行きたいと思っています。

大学からは、通所を依頼される場合、障害特性や支援状況などを記載した紹介状をもらうことがあるのですが、以前に紹介実績や成功事例があると安心してお願いできるといった声もありました。キャリアセンターと学生相談室が連携して支援している場合は、より綿密な情報交換が出来、こちらも助かっています。

紹介後は、通所中の様子や就労活動の状況などについて、訪問時等に情報共有していますが、学生の卒業後について知る機会は限られているようで、こうした報告も喜ばれているようです。