ドイツの医療事情⑥ クアって何?ドイツの療養文化
ドイツにも温泉があり、湯治が保険診療として認められている事をご存じでしょうか。今回取り上げる「クア(Kur)」は、ドイツならではの歴史と文化を背景にした温泉を利用した療養制度で、自然治癒力を活かしたアプローチが公的保険と結びついている点が特徴です。

ヴィ―スバーデン
クアとは?
ドイツ語のクア(Kur)は、ラテン語の「cura(治療・世話)」に由来し、温泉地や気候の良い地域で医師の処方に基づいて行われる治療滞在を指します。そしてクアハウス(Kurhaus)はその療養滞在をする宿泊施設の事。目的は主に2つあり、特定の疾患(リウマチ、呼吸器疾患、心臓病など)の治療を目指す「医療クア」と、健康増進やストレス軽減を図る「予防クア」に大別されます。いずれも薬物療法だけに頼らず、温泉や気候、栄養指導や運動療法などを組み合わせて自然治癒力を高めるのが基本的な考え方です。滞在期間は3~4週間ほどで、「クアアルツト(専門医)」の指導のもと、個々の症状に合わせたプログラムが組まれます。
ドイツには公的に認定された350以上のクアオルト(Kurort: 療養地)があり、地名に「バート(Bad: 入浴、風呂、湯治場)」がつく温泉地が代表的です。例えば、黒い森に位置するバーデン=バーデンや、バイエルン州にあるバート・キッシンゲンは歴史的にも有名で、上流階級の社交場として栄えた背景を持っています。近年では「ヨーロッパの偉大な温泉都市群」としてユネスコ世界遺産に登録された都市もあり、ドイツのクア文化が国際的な評価を得ていることがわかります。

保険適用と文化的背景
自然療法を重視するドイツでは、クア制度も公的保険の枠組みに組み込まれており、医療クアに関しては医師が必要と判断し保険機関が承認すれば、治療費の大部分を保険でカバーできます。慢性疾患の患者や手術後のリハビリ、ストレス障害などが主な対象で、患者の自己負担は1日あたり約10ユーロほど。これは一般的な入院よりも割安なため、経済的にも利用しやすい制度といえます。
クア文化のもう一つの特徴は、療養地での「休養」が単なる観光やリゾートではなく、“予防医学”の一環として機能していることです。早めにストレスを軽減したり、自然環境を利用して身体を調整することで、後々の重症化や医療費の増大を防ぐという考え方が根付いています。各クアオルトには公園や遊歩道、コンサートホールなどが整備され、滞在者は「クアタクセ(滞在税)」を支払ってそれらを利用します。歴史的には、社交や文化的交流もクアの一部であり、温泉や保養施設は社交界の中心として機能してきました。
このようにドイツのクアという療養滞在は、自然治癒力を活かした療法と公的保険を組み合わせ、身体的・精神的リフレッシュを総合的に行う仕組みとして発展してきました。近年はストレス社会への対策や予防医療の重要性が高まる中、改めてクアの価値が見直されています。自然を利用した伝統的な治療文化と、現代的な医療制度がバランスよく融合した事例として、ドイツの医療事情を知る上で欠かせない制度と言えるでしょう。