ドイツの医療事情⑤ なぜドイツでは心理療法が受けやすいのか?

近年、日本でもメンタルヘルスの重要性が認識され始めています。しかし、心理療法(セラピー)を受けることはまだ一般的ではなく、精神科での薬物治療が中心になりがちです。一方、ドイツでは心理療法が広く受け入れられ、公的健康保険でカバーされるため、多くの人が利用しています。

では、なぜこのような違いがあるのでしょうか?今回は、「心理療法の受けやすさ(アクセス)」と「社会的受容度」 の2つの観点から、日本とドイツの違いを具体的なデータとともに比較します。

1. 心理療法の受けやすさ – 健康保険と費用の違い

ドイツでは、心理療法は公的健康保険(Gesetzliche Krankenversicherung)の適用対象 となっており、医師の診断があれば無料または低コストで受けることができます(Bundesministerium für Gesundheit, 2022)。そのため、精神的な不調を感じたときに経済的な負担を気にせずカウンセリングを受けることが可能です。また、ドイツでは成人の約27.8%が年間を通じて何らかの精神疾患に罹患していると報告されています(Statista, 2023)。特に、不安障害(約15%)、うつ病(約8%)が多い とされています(Deutsche Depressionshilfe, 2022)。さらに、心理療法を受ける人の割合は約18% にのぼり、心理療法の利用率が比較的高いことがわかります(Statista, 2021)。しかし、心理療法を希望する人が多いため、実際にセラピストの予約を取るまでに3〜6ヶ月待つことも珍しくありません(BPtK Report, 2022)。

一方、日本では精神科や心療内科の診察は健康保険の適用対象ですが、心理療法(カウンセリング)は基本的に自費負担 となります。そのため、臨床心理士や公認心理師によるカウンセリングの費用は1回あたり5,000〜15,000円 ほどかかり(日本臨床心理士会, 2022)、継続的に受けるには経済的な負担が大きくなります。

このため、うつ病と診断された人でも心理療法を受ける割合は5〜10%程度にとどまり、多くの場合は薬物療法が中心 になっています(日本うつ病学会, 2020)。また、日本では精神科の初診待ち時間は2〜4週間程度 ですが(厚生労働省, 2019)、心理療法を受けられる病院やクリニックは限られており、特に地方では利用しづらいのが現状 です。

➡ 結論:ドイツでは心理療法が健康保険でカバーされており受けやすいが、待機期間が長い。一方、日本ではカウンセリングの自己負担が大きく、心理療法の利用率が低い。

2. 心理療法の社会的受容 – 日本の課題とドイツの現状

ドイツでは、心理療法は一般的な治療手段として広く受け入れられています。精神疾患を抱えることは特別なことではなく、メンタルヘルスの問題をオープンに話すことも珍しくありません。そのため、企業でもメンタルヘルス対策が進んでおり、従業員向けのカウンセリングやストレス管理プログラムを導入している企業が80%以上 にのぼります(Bundesanstalt für Arbeitsschutz und Arbeitsmedizin, 2021)。

一方、日本では「メンタルの問題は気の持ちよう」といった考えが根強く、心理療法を受けることに対する抵抗感がまだあります。特に職場では「精神的な問題を抱えていると評価が下がるのではないか」という不安から、メンタルヘルスの相談を避ける傾向があります。

実際、日本では50人以上の企業にはストレスチェック制度が義務付けられていますが、ストレスチェックを受けた後に実際にメンタルヘルス相談につながるケースはわずか6% にとどまっています(厚生労働省, 2021)。

➡ 結論:ドイツでは心理療法が社会に広く受け入れられ、企業のメンタルヘルス対策も充実している。一方、日本ではまだ偏見が強く、メンタルヘルスの問題を相談しづらい環境が残っている。

日本でも少しずつメンタルヘルスへの理解が深まり、企業のサポートや学校でのカウンセリング制度が増えつつあります。しかし、まだ心理療法を受けることへの偏見や、保険適用外であることによる経済的なハードルが大きな課題となっています。今後、より多くの人が安心して心理療法を受けられる環境が整うことを期待したいですね。

引用元一覧

  1. Statista (2023). Mental Health in Germany(ドイツの精神疾患統計)
  2. Bundesministerium für Gesundheit (2022). Psychotherapie und Krankenkasse(心理療法と健康保険)
  3. Deutsche Depressionshilfe (2022). Depressionsatlas(うつ病の実態調査)
  4. 厚生労働省 (2019, 2021). 患者調査, ストレスチェック制度調査
  5. 日本うつ病学会 (2020). うつ病治療の実態

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です